今さら聞けない「マト」と「シルベ」の使い分け

そういえば、「目的」も「目標」も「目」という漢字が頭についてる。

ドーシテ?と調べてみると;


目的:

・「目」は、「目指すところ」や「焦点」を意味する

・「的」もまた「目指す対象」を指す(そもそも「マト」だしね)

・したがって、「目的」は「目指すべき最終的な到達点」や「焦点を当てるべき最終的なありたい姿」といった意味合いを持つ


目標:

・「目」は「目的」と同様に「目指す」という方向性を示す

・「標」は「標識」や「目印」といった意味を持つ(そもそも道標の「シルベ」だしね)

・つまり、「目標」は「目指す方向にある具体的な目印」や「目的を達成するための段階的な指標」といった意味合いを持つ


ということらしい。そりゃそうだ。

どちらのワードも漠然とした方向ではなく、「目」という漢字で、ある一点や方向性を「見据えて」「定める」というニュアンスを表現しているらしい。その他、「目」がつく言葉には「目安」「着目」「目次」など、何かを意識したり、見定めたりする際に使われるものが確かに多いな。

へぇ、だから「目」なのね。


この辺りの理解を踏まえて、目的と目標の定義を整理してみると以下のようになるんだろうね。


「目的」はObjectiveやPurpose:

・目指すべき最終的な到達点

・どちらかといえば抽象的で定性的

・長期的


「目標」はとりあえずのGoal:

・目的を達成するための段階的な指標(目指す方向にある目印)

・どちらかといえば具体的で定量的

・短期的


つまり、「目的に紐づく複数の目標を達成しつづけることが目的の達成につながる」ってことなんだよね。だけど、この定義はまだ抽象的でこのままではどうも解像度が低い。


ハイ、ようやく本題。


みんなは目的・目標がどういう意味を持ち、どう使い分けるべきかをきちんと理解してる?

ボクはそうでもなさそう。いまさら聞けない・・ってなわけで本記事では、


・目的と目標の使い分けについての理解を深めるには

・その理解を基にしてどうやって目的と目標を設定していくのか


この2点について考えてみようと思います。



まずは目的と目標をミクロな例に置き換えてみる。



目的(目指すべき最終的な到達点);

同僚からの信頼を獲得する


目標群(目的を達成するための段階的な指標);

1.メールへは24時間以内、チャットへは3時間以内に回答する(但し営業時間内)

2.毎朝必ず朝9時までにオフィスに出社する(リモートワークの場合は朝9時に業務を開始する)

3.To Doは期日前に完了させる

4.期日までに完了させることができなそうなら関係者と早めにコミュニケーションを開始し新たな期日を設定する


とかありそうで、目的に対して一つの目標だけをセットすれば目的を達成できる、ってことではない、ってのは自明の理。


そんで例えば

目標1「メールへは24時間以内、チャットへは3時間以内に回答」への行動計画として挙げられるものとしては;

・メールとチャットの通知設定を最適化する

・メールとチャットのチェック時間を設ける(9時、13時、16時とか。作業に集中してたりするとタイムリーな返答ができないこともあるから。)

・すぐに回答できなくても、受け取ったことを示す一次回答を迅速に実施

・緊急度が高い場合は、電話かオンラインMTGに切り替える


ってなカンジになるんだろーな。

こういったミクロな観点からなら、目的・目標、プラスそのための行動計画は想像しやすい。



続いて、少しマクロな観点から考えてみる。


XYZ社が「2030年に売上高500億円達成」というようなことを掲げているとする。


これ、目的?目標?


「目的」はObjectiveやPurpose:

・目指すべき最終的な到達点

・どちらかといえば抽象的で定性的

・長期的


「目標」はとりあえずのGoal:

・目的を達成するための段階的な指標(目指す方向にある目印)

・どちらかといえば具体的で定量的

・短期的


上述したこの定義に照らし合わせるなら、明らかに「目標」だわな。


「2030年に売上高500億円達成」が目標であるなら、それが紐づく「目的」があって然るべき。

しかし、それが存在しないなら何のために「2030年に売上高500億円達成」を達成しようとしているのかは当然曖昧模糊。


目的なく、単に「2030年に売高500億円達成」するだけで良いなら、どれだけ従業員が疲弊しようが、法に抵触しようが、社会からどういう悪評を得ようが、論理的にはどんな手段を採ることも否定されない、ということにもなりかねない。それは従業員にとっても経営陣にとってもそのお客さま・取引先にとっても社会にとっても望ましい結果になるわきゃない。


「2030年に売上高500億達成」することで、何にどうなって欲しいのか・何をどうしたいのか、を示す「目的」の設定がXYZ社には必要。

目標を達成することによって「目指すべき最終的な到達点」はなんなのか。新たな事業を展開するための基盤を築きたいのか、あるいは、従業員とその家族の生活を豊かなものにしたいのか、それとも、何らかの社会貢献をしたいのか、それ以外の何か?



例えば、トヨタ自動車。


目的(ObjectiveやPurpose)=「目指すべき最終的な到達点」は、 「幸せを量産する」会社であることらしい。


つまり、トヨタ自動車が設定するすべての目標は、「幸せを量産する」会社であり続けるためのもの。

XYZ社のように「2030年に売上高500億達成」と同類の売上利益目標がトヨタ自動車にも当然あるわけで、それは数ある目標のうちのひとつということ。


その売上利益目標の達成から実際に得られる利益は、以下の目標1・2・3のような活動の活性化を可能とし、そのことが「目指すべき最終的な到達点」=「幸せを量産する」会社であることにつながる、という関係性が見えてくるし、その関係性は当然意図的にセットされたもの。言い換えると目標1・2・3はすべて「幸せを量産する」ための活動で、それらへの投資を実現するために目標4がある、ということ。

(注)1・2・3・4はすべて「幸せを量産する。」をベースに筆者が妄想したものであり実際の目標とは無関係



 目標1:次世代技術への投資

CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に向けた研究開発投資を可能にし、そのことは、より安全で快適なモビリティを提供することに繋がり、結果として人々の生活の質(QoL)向上=「幸せを量産する」に貢献する


目標2:雇用機会創出

そして、さらなる雇用機会の創出やサプライチェーン全体への経済波及効果を生み出し、そこに属す利害関係者の生活を改善する=「幸せを量産する」に貢献する


目標3:環境負荷軽減貢献

さらに、より環境負荷が極端に低いモビリティの開発、生産プロセスの実現への投資を可能とし、社会全体が抱える環境・エネルギー問題を緩和する=「幸せを量産する」に貢献する


目標4:20XX年に純利益額XXXX億円達成

ここで得る利益が上記1・2・3への投資を可能とする。当然、その利益を獲得するための活動計画がこの配下に存在する



これらの目標を達成すること➔目的に近づくことが、その企業そのものの在り方を健全化するだけでは無価値。その中を流れる血液のような存在である従業員に対しても、目的が持つ意味、そしてそれに近づくための目標群の内容だけでなく、その目標群の達成で得られるはずの価値を明確に示すこと、これらを欠いてしまってはバランスが悪すぎる。


では、その価値とはどういうものになりますか?


引き続きトヨタ自動車を例にとるなら;

(注)AGAIN。以下価値1・2・3・4はすべて筆者の妄想でありトヨタのそれではない



従業員にとっての価値1:安定と安心感の向上

企業の売上成長と利益確保は、雇用の安定に直結する。将来的なリストラや事業縮小のリスクが低減され、従業員は安心して働き続けることができる。そして、安定した経営基盤は、福利厚生の充実、万が一の事態に対するセーフティネットの強化にも繋がり、生活の安心感を提供する。


従業員にとっての価値2:仕事のやりがいと誇り

「より安全で快適で環境に優しいモビリティ」の開発に携わることは、社会貢献への実感を伴うことになるはず。従業員自身が、世の中のQoL向上や環境問題解決に貢献しているという強いやりがいを感じることができるはず。自社製品が世界中で「幸せ」を生み出しているという実感は、従業員の誇りとなり、日々の業務へのモチベーションの向上につながる。


従業員にとっての価値3:成長機会とキャリアパスの多様化

次世代技術への投資は、AI、自動運転、電動化といった新たな技術領域での仕事やプロジェクトを創り出す。これによって、既存従業員は最新技術を学ぶ機会を持つことができるし、そのスキルを習得することで、キャリアを広げる機会を得られる。そのことは昇進・昇格の機会、新たな部署・役割への異動の可能性も増やすことにつながり、キャリアパスを多様化してくれる。


従業員にとっての価値④:適正な評価と報酬

売上・利益の拡大は、当然給与や賞与の安定・増加に繋がり、従業員の生活水準向上に貢献する。従業員への投資(研修、福利厚生など)にも積極的になるだろうし、従業員のエンゲージメントも高まる。



こんなカンジになるのでしょう。



さて、「2030年に売上高500億円達成」を目的にセットしてしまっているようなXYZ社にはどういう対処が必要だろう。


ここまでに整理した内容から、対処への取り組みにおいて役立ちそうなフォーマットのようなものを抜き出してみる。


目的:「xxx」(目指すべき最終的な到達点)


↑ 目標達成が目的達成に繋がる


目標群:(目的を達成するための段階的な指標)

ー目標1:「xxx」

ー目標2:「xxx」

ー目標3:「xxx」

ー目標4:「xxx」※1~3の活動原資を捻出するための売上利益目標


↓目標達成が従業員への価値提供に繋がる


ー従業員にとっての価値1「xxx」

ー従業員にとっての価値2「xxx」

ー従業員にとっての価値3「xxx」

ー従業員にとっての価値4「xxx」


「2030年に売上高500億円達成」をフォーマットにあて込んでみる。

冒頭に記した通り、「2030年に売上高500億円達成」は目的ではなく目標にしかなりえないので以下のようになる。まずやるべきは、どういう目的のためにその目標達成を企んでいるのか、を明確にすることなんだろう。


目的:「xxx」(目指すべき最終的な到達点)


↑ 目標達成が目的達成に繋がる


目標群:(目的を達成するための段階的な指標)

ー目標1:「xxx」

ー目標2:「xxx」

ー目標3:「xxx」

ー目標4:「2030年に売上高500億円達成」※1~3の活動原資を捻出するための売上利益目標


↓目標達成が従業員への価値提供に繋がる


ー従業員にとっての価値1「xxx」

ー従業員にとっての価値2「xxx」

ー従業員にとっての価値3「xxx」

ー従業員にとっての価値4「xxx」


目的の明確化、どうやるか。


トヨタ自動車の例のように、XYZ社にも目的(ObjectiveやPurpose)が既に存在しているなら、「2030年に売上高500億円達成」という目標は、その目的の達成に近づくためのものとして資格を充たしているか、を検証する必要がある。


そして、目的と目標のつながりに問題が無いようなら、目的(ObjectiveやPurpose)を設定しなければならない。

※会社を興している以上、もちろんその目的(ObjectiveやPurpose)はあるんだよね、と思いきや、それがはっきりしていない会社は多そう。なにより、目的を何度変えたところでペナルティを受けるわけではないし、目的が可変であることがそれを明確化することを妨げてしまっているのかもしれない。いや、目的は周辺環境の変化に応じて当然変化させるべきものではあるからそれを否定しているわけではないんだけど。

※定款にも「目的」項はあるものの、その内容は「ソフトウェアの研究・企画・設計・開発・販売」のように何を生業にしているかを示すものでしかなく、その会社が何のために存在するのかの目的では決してない。定款の目的項にはObjectiveやPurposeに相当するものを書かせればいいのに、と心底思う。


目的を明確にする方法に決まりきったフォーマットがあるわけはなくて、それぞれの企業がそれぞれに合ったやり方でやるしかないでしょ、と考えてはいるものの、ボクがXYZ社のメンバーだったらこう提言するよな、というものを以下に記しておく。



ステップ1:コレマデを振り、企業のDNAを理解する

企業の目的は、突然降って湧くものであるわけはない。その企業の歴史、創業者の想い、そしてこれまでの活動の中で培われてきた強みや文化の中にしか答えはないはず。


1.1. 創業の精神・コレマデの探求

創業者はなぜこの会社を立ち上げた? どんな問題意識や社会への貢献意欲があった?過去の危機をどう乗り越えてきた? その時に企業を支えた価値観は何?過去の成功体験から得られた教訓、強みは何?


1.2. 既存の企業理念・ビジョンの棚卸し

現在の企業理念やビジョンは、現状に即している? 形骸化してない?従業員はそれらをどの程度理解し、共感してる?


1.3. 主要ステークホルダーからの視点収集

顧客は、自社の製品やサービスにどんなことを期待し、どんな価値を感じてる?従業員は、この会社で働くことにどんな意味や意義を見出してる? 何にやりがいを感じてる?取引先は、自社に何を求めてる?社会は、自社の存在にどんな期待を寄せてる?


ステップ2:現在地を把握し、強みと課題を明確にする

企業の目的は、過去からの連続性を持つと同時に、現在の強みと将来への展望を反映している必要がある。


2.1. 事業と組織の現状分析

現在、どんな事業を展開し、どんな製品・サービスを提供してる?自社の強み(コアコンピタンス)は何? 競合他社との差別化ポイントは?組織の文化や風土はどんなもの? どんな人材が活躍している?事業環境の変化(技術、市場、社会動向など)はどう?


2.2. 存在意義の問い直し

もし自社が明日なくなったとしたら、社会や顧客、従業員は何を失う?自社は、事業を通じて社会にどんな価値を生み出してる? それは他の企業では代替できないもの?売上や利益を超えて、何のために存在する?


ステップ3:未来を描き、目指す方向性を定義する

過去と現在を踏まえて、未来において企業がどのような存在でありたいか、どんな貢献をしたいかを具体的にイメージしてみる。


3.1. 未来の社会像・顧客像を想像する

10年後、20年後の社会はどうなっていると思う? どんな課題がある?その中で、自社の顧客はどのようなニーズを持ってる?自社はその未来の社会において、どんな役割を果たしてる?


3.2. 自社のユニークな価値を言語化

自社だからこそできる、独自の貢献とは何か?どの領域で、どんな方法で価値を創出したい?



「これ、やり遂げてね」と指示された目標、メチャメチャ頑張ってようやく達成したのに、その成果が何の価値も意味も生まなかった、なんて悲劇はないほうがいいに決まってる。そういうシーンを少しでも減らすために、目指すべき最終的な到達点として「目的」と、その目的を達成するための段階的な指標としての目標が正しくセットされることは最低限の下準備。


目標は定量的で具体的だから、それだけにフォーカスしてしまいがち。目的は定性的で抽象的だからおざなりに扱ってしまいがち。

だからこそ、チームレベルならチームのヘッド、部なら部のヘッド、会社なら会社のヘッド、が、目的を考えてセットする、すべての目標はその目的とリンクさせる、ことがやれる環境を強い意志を持って構築することが第一歩なんだと思うよね。


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